2012年5月9日水曜日

5月3日ナインイベントの報告

2012年5月3日にクロスパルにいがたで実施したナインにいがたイベント「憲法記念日‐今、日本に必要なものは何か」は、30名超の方々が参加して下さいました。30名の皆さんの多くは、日ごろから新潟の市民活動をけん引されている方々でしたが、はじめてお会いする方もいらっしゃいました。

会は以下のスケジュールにそって実施されました。

テーマ「憲法記念日‐今、日本に必要なものは何か」 時間13:30~17:00 
場所 クロスパルにいがた交流室
 0  古町十字路での街頭スピーチ(12時~13時)
 13:30~
Ⅰ 代表挨拶 横山さん
Ⅱ 『ここが家だ』輪読 絵とともに
 Ⅲ ワークショップによる議論
 ―憲法とハシズム・・・閉塞感を打ち破るリーダーシップ?
 ―憲法の問題、追加すべき点を考える

2012年5月4日(金)朝日新聞朝刊にも掲載されました。



ここにはナインにいがた共同代表である横山由美子氏からの挨拶文、『ここが家だ‐ベン・シャーンの第五福竜丸』輪読の様子、ワークショップの様子について報告します。()が作成者です。

★横山さんの挨拶


 ゴールデンウィークの真ん中でお忙しい中をありがとうございます。
今日は施行されて65年目の憲法記念日。衆参憲法審査会が昨年11月に始動し、憲法改正をめぐる議論が動いています。

審査会メンバーに偏りがあり、改正ありきで進む危惧を持ちます。次期衆選挙をにらんだ党利党略が先走って見え、私たち市民が置き去りになっているようです。

もちろん各党ともスタンスが違って、民主は改憲ですが党としての草案ができていなくて改憲の必要あれば論議をすすめたいというニュアンス。自民は自衛隊を「国防省」に改め、集団的自衛権の行使が可能となる彼らが言うところの戦争ができる普通の国へと一歩進めた主張。公明党は加憲が現実的とし、共産党・社民党は護憲。これらの議論にフェイントで割り込んだのが橋下大阪市長の一院制の導入。私たちは市民の視点で議論する必要を思います。大きな力を持つ国家を縛る最後の砦である憲法を、今日お集まりの皆さんとまず議論していきたいと願います。

 さて、昨年の3・11から1年と2か月が過ぎようとしています。野田首相は12月に収束宣言しましたが、原子炉が完全に冷却されたわけでも、放射能の流出を止められるめどがついたわけでもありません。損壊した原子炉建屋では被曝しながらの作業が続き、事態がさらに悪くなる可能性もあります。私は日本YWCA被災者支援プロジェクトチームに入っていて、先日福島に行ってきました。福島駅西口で毎時0.94マイクロシーベルトでしたし、建物の中でも年間1ミリシーベルトを超えるところがたくさんあります。多くの人々が故郷を離れざるを得ない状況や残るのか避難するのか戻るのかと揺れながら不安の中で生活しています。あと2日で日本の原発が停止となりますが、ほっとする間もなく再稼働が押し進められているようです。命を大切に選ぶ・・・地球上に生きる生命体として当たり前のことができないのはなぜでしょう。

 ここで、YWCAの先輩武田清子さんが朝日新聞に載っていましたのでご紹介します。現在94歳でかくしゃくとしておられます。1939年から42年までアメリカで学び、国際基督教大学で長く教授を務められました。丸山真男や鶴見俊輔らと共に「思想の科学」の創刊メンバーで市川房江が世に出るきっかけを作った人と紹介されていました。恩師にラインボルト・ニーバーがいて、日米開戦でニーバーが保証人になると申し出てくれたそうです。私はご挨拶の最後にニーバーの平静を求める祈りをご紹介したいと思いました。私は日本国憲法をお題目のように唱えたり掲げようとは考えていません。しかし、ハシズムのように怒りの力で破壊していくことに疑問を持ちます。冷静に議論していきたいと願っています。また、原子力やアメリカなど大きな力に依存しないで、私たち一人ひとりの感覚・思慮を信じて、市民が声を上げていく民主主義の実現を願いたいからです。

ニーバーの『平静を求める祈り』
 ――神よ我らに与えたまえ 変え得ぬことを受け入れる平静さを
   変えるべきことを変える勇気を そしてその二つを見分ける英知を――


(横山由美子)


『ここが家だ-ベン・シャーンの第五福竜丸』の朗読について

会を始めるイントロダクションとして『ここが家だ-ベン・シャーンの第五福竜丸』(集英社、2006)を参加者30名と輪読しました。これは20世紀のアメリカを代表する画家のひとりであるベン・シャーン(Ben Shann 1898-1969)のタブロ-画の連作「Lucky Dragon Series 」をもとにした絵本です。この「Lucky Dragon Series」は1957年から58年にかけて、アメリカ月刊誌『ハーバーズ』で第五福竜丸に関するルポタージュに挿絵をつけたことから発展しました。シャーンの画に文をつけたアーサー・ビナードさんは、「シャーンの力強い絵と綱引きするようになって、その絵に負けない文章を書けるように勉強した。シャーンの絵は問題の普遍性を捉えていたので、僕も負けないように書いた」とNHKの日曜美術館において述べていました(ベン・シャーンの企画展が福島をはじめ全国複数箇所で開催されたので)。

参加者の方々には輪読を通して、『ここが家だ』という作品のなかに入ってもらうことを試みました。それは参加者全員がある一つの世界観を共有するという過程にもなりました。その後、1957年の第五福竜丸事件において取り扱われた問題の本質を各自で読み取りました。40年以上前の出来事は、3.11後の現在の問題と通底しているようでした。あまりにもリアリティがあるため声に出して読むことができない人もいました。

本来であればプロジェクタを通じてシャーンの絵のリアリティも共有したいところでしたが、それはこちらの準備が間に合わず不可能でしたので残念でした。

ですが、今回行った『ここが家だ』の絵と文章の輪読は、参加者全員に過去の出来事を現在へと結び付けるインパクトを与えたように思います。絵と文章を使って参加者に問題提起をする、参加者同時でその時間と空間を共有するという試みは、市民が多様な表現をつくりあげる一歩になると思います。

大声をあげることなくとも、言葉が巧みでなくとも、静かに、ある表現と向かい合い、その表現に自分の心情を重ね合わせていく-その行為も個人を社会へとつなげる営みになると実感しました。

(新津厚子)

★ワークショップについて

憲法を考えるということは、「国の基本的なかたち」を考えるということです。ただ、私たちは、日常生活で普段から、そんな大きな問題について考えることはあまりないかもしれません。けれども、少なくとも年に1日、たとえば憲法記念日には、地域の人たちが集まって、自分の国の「かたち」について、あーだこーだと考えてみるというのは、デモクラシー(民主主義)にとって大切なことだと思います。

ところで、近年、「憲法を変える!」と訴える人の声が大きくなっていて、またそういう勢いのある声のほうが人気が出てきたようにも見えます。たとえば、橋下現大阪市長や彼を支持する「維新の会」などは、「反原発」と「憲法改正」を高らかに謳って人気を博しています。また、若い研究者や専門家の中にも、素朴な「改憲」論が高まっています。これらをどう考えたらいいのでしょうか。

「改憲」の訴えが人気を博している以上、それには何らかの理由があるはずです。ですから、たとえば「憲法を守る」立場の人々がそれをはじめから相手にしない、という態度をとるのは良くありません。むしろ、「改憲」を支持する人たちがなぜ今、それを支持するのかを理解し、適切な反論や応答をしなければならないのではないか。

それで、今回のワークショップでは、特に今流行の「橋下語録」を題材に、まずは、いわば「改憲」の論理と心理を明らかにしようと努めました。そしてその上で、現行憲法を守らなければならないとすれば、それはどうしてなのか、また、現行憲法を活かすために今、何が必要なのか、また特に「311」以後に新たな原理や理想を必要としている日本社会にとって、憲法はどのような意味をもつのか、について話し合いました。

多岐にわたる議論がなされたので、ひとつにはまとめられませんが、当たり前の事実を確認することがまずは重要であることは確認できたと思います。それは、日本国憲法は、戦争の経験という重い歴史的な文脈の中から生まれ、命や生活を重視する人々の願いが明確に謳われているという事、そして、権力者による国家デザインのためではなく、何よりも権力なき人々がその権力者たちを拘束するためのものであるという事、そして「311」後、生存権をはじめとする多くの権利が侵害されている事にもみられるように、未だその理想は達成されていない事などです。

いずれにせよ、憲法をめぐっては、何らかの権威が一方的に(そして上から)その正否を判断するというのではなく、今回のように、市民による不断の見直しや話し合い、そして実践が一番重要であるという事です。ナインにいがたは、このような視点から、今後も同様の試みを地道に展開できればと思っています。

(佐々木寛)

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 ということで、今回の会は、「憲法記念日ー今、日本に必要なものは何か」というテーマと問いを設定して、参加者と議論の場をつくりました。ナインにいがたは今回の機会を経て、この「今、日本に必要なものは何か」という問いに対し、「市民が集まり、自分たちの社会について、自由に、真剣に議論していくこと、そしてそのようなことができる場をつくること」という答えを現時点で選択しました。

 それはすなわち、民主主義(デモクラシー)です。今年の5月3日は、こういった極めて当たり前と思われる答えの重みを再確認する一日となりました。
 

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